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授業科目名 ナラティブを聴く:病いの物語と文化理解
時間割番号 CRAK37
担当教員名 錦織 信幸
開講学期・曜日・時限 集中・(未登録)・(未登録) 単位数 1
<対象学生>
全学部、山梨大学生、科目等履修生(社会人)、特別聴講生(大学コンソーシアムやまなし等)
<授業の目的>
例えば「喘息」と聞いたとき、あなたは何を思い浮かべますか?皆さんが持っている医学知識に応じて症状や治療などを思い浮かべるかもしれません。一方で「私の喘息」と聞くとどんな違いを感じますか?病気によって大変な思いをしたり、生活上の支障が出たり、その人の人生への影響を含めた経験について思いを巡らせるかもしれません。
「疾患」は科学的に定義されるものですが、人々が経験する「病い」は人それぞれ千差万別で、それが生活に及ぼす影響、人生における意味、社会的な損失や利益、等々幅広い経験を含みます。
本科目では生物医学的に疾患を捉える視点からすこし離れ、クライアント一人ひとりの病いの経験を受容的に理解し、その物語に寄り添いながら、クライアントと治療者がともに解決策を探索していくナラティブ・アプローチについて学びます。
またナラティブ・アプローチは病いだけではなく、障害や介護なども含めて、人が経験するあらゆるイベントや状態に適応可能です。受講生それぞれの興味にあわせて、「障害の語り」「介護の語り」など応用範囲を広げて議論していく予定です。
ナラティブはすべての人のものです。医学的知識や専門分野にかかわらず受講を歓迎します。
<本授業科目による獲得・涵養が特に期待されるコンピテンシー>(能力・資質)
全学共通教育科目向け
記号コンピテンシー(能力・資質)説明 
N-A共通論理的かつ柔軟に思考する力(思考)問題を細分化して多面的・客観的にとらえ、専門分野や文理を問わない幅広い知識に基づき様々な観点から考察し、結果を筋道立てて根拠を示しながら説明できるようにすることで、論理的かつ状況の変化に対して柔軟に対応できる思考力を備える
N-B多様な人々と調和する力(調和)人や社会の多様性に対する知識と理解を基に自己や社会のあり方について相対的視点を持ち、自らの言葉(日本語、英語)で的確に論評・伝達することで、多様な人々と共働する基礎力を備える
N-Cより良く生きるための力(福利)心身の健康を維持増進して国際社会の一員として暮らすために必要な知識技能を備え、自己と社会の理解に基づき人生設計する力を備える
<到達目標>  到達目標とは
目標NO説明コンピテンシーとの対応
共通
1西洋医学的に定義される疾患diseaseと人々が経験する病いillnessについて、考察、理解し、文化的・社会的側面から「病い」について捉え直す基礎的な知識と態度を獲得する。N-A
2多様な文化社会的背景をもつクライアントに対して、それぞれが抱える特異な(唯一無二の)病いや障害の経験を、受容的、肯定的に聞き取り理解を深めるための、ナラティブ聴取の技術を獲得する。N-B
3多様な文化社会的背景をもつクライアントに対して、それぞれが抱える特異な(唯一無二の)病いや障害の経験を、受容的、肯定的に聞き取り理解を深めるための、ナラティブ聴取の技術を獲得する。N-C
4多様な文化社会的背景をもつクライアントの病いや障害の経験に興味を持ち、自らのもつ文化的バイアスを認知しつつ、敬意をもって他者を理解しようと努める、文化相対主義的な態度を習得する。N-B
5多様な文化社会的背景をもつクライアントの病いや障害の経験に興味を持ち、自らのもつ文化的バイアスを認知しつつ、敬意をもって他者を理解しようと努める、文化相対主義的な態度を習得する。N-C
<成績評価の方法>
目標No割合評価の観点
140%すべての授業について評価課題として「授業での学びについての振り返り」を提出しもらい、授業内容の理解度と内面化について評価する。
215%学習者自身が試みた具体的なナラティブ聴取の実践についての課題発表から、複数の項目にわたり評価尺度を用いて評価する。
315%学習者自身が試みた具体的なナラティブ聴取の実践についての課題発表から、複数の項目にわたり評価尺度を用いて評価する。
415%最終課題課題レポートから、ナラティブ・アプローチの理論的な背景に対する理解・習熟度と、実社会における意義・応用について、学習者自らの視点で論じることができているかを評価する。
515%最終課題課題レポートから、ナラティブ・アプローチの理論的な背景に対する理解・習熟度と、実社会における意義・応用について、学習者自らの視点で論じることができているかを評価する。
合計100% 
<授業の方法>
1.中心的なトピックについての講義
2.アクティブラーニング
・様々な方法を組み合わせた演習(映画やドラマを使った観察法、グループディスカッション、シナリオをつかったロールプレイ、等)
・課題の発表と討論
<受講に際して・学生へのメッセージ>
理論的な背景や知識は講義によって提供されますが、もっとも中心的な学びは、グループディスカッションやロールプレイなどのアクティブラーニング、また履修者それぞれのリフレクションから生まれると考えます。履修者の積極的な学びの姿勢を期待します。
医療と患者のすれ違い、医療不信、反ワクチン運動、「疾患の治療」と「病いの癒やし」の隔たり、等、いままでなんとなく感じてきたギャップや疑問について理解を深めるきっかけになるかもしれません。
<テキスト>
  1. なし
<参考書>
  1. アーサー・クラインマン, 「病いの語り 慢性の病いをめぐる臨床人類学」, 誠信書房,
    (1996)

  2. アーサー・クラインマン, 「他者の苦しみへの責任 ソーシャル・サファリングを知る」, みすず書房,
    (2011)

  3. 野口裕二, 「ナラティヴ・アプローチ」, 勁草書房,
    (2009)

  4. シーラ・マクナミー, 「ナラティヴ・セラピー 社会構成主義の実践」, 遠見書房,
    (2014)

  5. 森岡正芳, 「臨床ナラティヴアプローチ」, ミネルヴァ書房,
    (2015)

  6. 斎藤清二, 「医療におけるナラティブとエビデンス 対立から調和へ」, 遠見書房,
    (2016)
<授業計画の概要>
1タイトル(5/24土) オリエンテーション / 病い illness と疾患 disease(1)理論・観察
事前学習
事後学習
事前学習:指定した資料を読んで簡単なレポートを提出
事後学習:評価課題(授業での学びについての振り返り)
授業内容本科目の目的、全体の構成、教育方法についての概観。本科目で取り扱う病い illness および疾患 diseaseの定義について論じ、観察実習(ドラマなどの映像を使用)を通じてその理解を深める。
2タイトル(5/24土) 病い illness と疾患 disease(2)演習 / 「西洋医学という文化」と代替医療
事前学習
事後学習
事後学習:評価課題(授業での学びについての振り返り)
事後学習:指定された病気についての事前学習とまとめスライドの提出
授業内容医療(西洋医学)の場面でしばしば見受けられる疾患、診断、治療などにまつわる医療従事者と患者の間のすれ違いについて、「病いと疾患」の観点から考察する。
3タイトル(6/7土) スティグマ―社会が増幅する病いの苦しみ / ナラティブ聴取の技術
事前学習
事後学習
事後学習:評価課題(疾患と病いについての考察)
授業内容社会によって増幅される病いの苦しみについての発表と討論。
ナラティブ聴取の具体的技術について説明し、実践演習を行う。
4タイトル(6/7土) ナラティブ・アプローチ(1)エスノグラフィー / ナラティブ聴取の技術
事前学習
事後学習
事後学習:評価課題(授業での学びについての振り返り)
授業内容他者の文化を理解する際に用いられるエスノグラフィーという方法論、基本的考え方について講義。
ナラティブ聴取の具体的技術について説明し、実践演習を行う。
5タイトル(6/14土) ナラティブ・アプローチ(2)意味生成と治療的会話、ストーリー・テリング
事前学習
事後学習
事後学習:評価課題(授業での学びについての振り返り)
授業内容医療介護福祉場面におけるストーリー・テリングの重要性、意味生成、治療的会話について講義。
関連する事例やナラティブについて共有しあい、議論、理解を深める。
6タイトル(6/14土) 様々なナラティブ:慢性疾患と高齢者のナラティブ、障害のナラティブ、介護をする人々のナラティブ
事前学習
事後学習
事後学習:ナラティブ聴取の課題に取り組む
事後学習:評価課題(授業での学びについての振り返り)
授業内容慢性疾患を抱える人々、障害とともに生きる人々、高齢者、介護に関わる人々のナラティブついて共有、議論、理解を深める。
7タイトル(6/28土) 文化によって規定される病い / 多文化共生社会におけるナラティブ
事前学習
事後学習
事後学習:評価課題(授業での学びについての振り返り)
授業内容文化によって規定される病いについて講義。事例を共有。
外国で医療を受ける人々のナラティブについて事例を共有、議論、理解を深める。
8タイトル(6/28土) ナラティブの共有 / 最終討論
事前学習
事後学習
事後学習:最終評価課題
授業内容受講生が聴取してきたナラティブの共有
最終討論:ナラティブ・アプローチをどのように医療介護福祉、あるいは個々人の生活の現場で活かせるのか?
<実務経験のある教員による授業科目の概要>
医師:内科医・家庭医として日本の地域医療に従事したのち、国境なき医師団、国連児童基金(UNICEF)、世界保健機関(WHO)等を通じて、グローバルヘルスの分野でアジア・アフリカ諸国で活動。
具体的な教育方法
・日本において地域医療に従事し、医師教育に携わった経験から、患者の病いの経験を聴取・理解することの重要性を臨床実例にもとづいて指導できる
・海外における人道援助活動や疾病対策の政策策定に携わった経験から、保健医療福祉における文化理解の重要性を豊富な事例にもとづいて指導できる
<前年度授業に対する改善要望等への対応>
授業評価アンケート対象外
<備考>
・本科目は、5/24、6/7、6/14、6/28、いずれも土曜日9:00~12:10の時間帯に山梨県立大学飯田キャンパスで実施します。
・本科目は医療福祉に関わるものだけではなく、広く本トピックに興味をもつ人が、だれでも学べるように配慮してデザインされています。事前の専門的な知識や技術は必須ではありません。
・他大学の学生や社会人等とともに学ぶ「PENTAS YAMANASHI」の科目です。