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授業科目名 ナラティブを聴く:病いの物語と文化理解
時間割番号 CPYK50
担当教員名 錦織 信幸
開講学期・曜日・時限 集中・(未登録)・(未登録) 単位数 1
<対象学生>
全学部2年生以上対象
<授業の目的>
この科目は「連携開設科目(主幹大学:山梨県立大学)」です。
授業の実施日については、大学ホームページ(https://www.yamanashi.ac.jp/campuslife/332)に掲載「教養教育連携開設科目履修ガイド」の令和6年度連携開設科目(主幹大学:山梨県立大学)一覧(PENTAS YAMANASHI)を確認してください。

例えば「喘息」と聞いたとき、あなたは何を思い浮かべますか?皆さんが持っている医学知識に応じて症状や治療などを思い浮かべるかもしれません。一方で「私の喘息」と聞くとどんな違いを感じますか?病気によって大変な思いをしたり、生活上の支障が出たり、その人の人生への影響を含めた経験について思いを巡らせるかもしれません。
「疾患」は科学的に定義されるものですが、人々が経験する「病い」は人それぞれ千差万別で、それが生活に及ぼす影響、人生における意味、社会的な損失や利益、等々幅広い経験を含みます。
本科目では生物医学的に疾患を捉える視点からすこし離れ、クライアント一人ひとりの病いの経験を受容的に理解し、その物語に寄り添いながら、クライアントと治療者がともに解決策を探索していくナラティブ・アプローチについて学びます。
「病いの経験」はすべての人のものです。医学的知識の有無にかかわらず、「病い」の経験に興味がある方は誰でも受講できます。
<本授業科目による獲得・涵養が特に期待されるコンピテンシー>(能力・資質)
全学共通教育科目向け
記号コンピテンシー(能力・資質)説明 
A共通教養多様な知識の獲得単位を取得した教養教育科目の概要と、重要な基礎的事項を説明できる。
B異文化理解と外国語リテラシー自文化と異文化に対する知識と理解を基に、自己や社会のあり方について相対的視点から意見を述べることができる。
「英語」で自らの専攻分野の内容を理解し、その内容について簡単に表現することができる。
「ドイツ語・フランス語・スペイン語・中国語」で基礎的な内容について読み書き、口頭でのやりとり・意思疎通ができる。
C汎用能力1・コミュニケーションスキル傾聴力相手の意見を丁寧に聴き、その意味・意図を自分自身で表現できる。
<到達目標>  到達目標とは
目標NO説明コンピテンシーとの対応
共通
1西洋医学的に定義される疾患diseaseと人々が経験する病いillnessについて、考察、理解し、文化的・社会的側面から「病い」について捉え直す基礎的な知識と態度を獲得する。A
2多様な文化社会的背景をもつクライアントに対して、それぞれが抱える特異な(唯一無二の)病いや障害の経験を、受容的、肯定的に聞き取り理解を深めるための、ナラティブ聴取の技術を獲得する。C
3多様な文化社会的背景をもつクライアントの病いや障害の経験に興味を持ち、自らのもつ文化的バイアスを認知しつつ、敬意をもって他者を理解しようと努める、文化相対主義的な態度を習得する。B
<成績評価の方法>
目標No割合評価の観点
130%第3回終了時に疾患と病いについての自らの理解の変遷と深化の過程を考察するレポートを課する。
230%学習者自身が試みた具体的なナラティブ聴取の実践についての課題発表から、複数の項目にわたり評価尺度を用いて評価する。
340%与えられたテーマについて論じた課題レポートから①基本的知識の習得、②理論背景についての理解、③ナラティブを通じた文化理解についての実践的経験の内面化、の3点を中心に評価する。
合計100% 
<授業の方法>
1.中心的なトピックについての講義
2.アクティブラーニング
・様々な方法を組み合わせた演習(映画やドラマを使った観察法、グループディスカッション、シナリオをつかったロールプレイ、等)
・課題の発表と討論
<受講に際して・学生へのメッセージ>
理論的な背景や知識は講義によって提供されますが、もっとも中心的な学びは、グループディスカッションやロールプレイなどのアクティブラーニング、また履修者それぞれのリフレクションから生まれると考えます。履修者の積極的な学びの姿勢を期待します。
医療と患者のすれ違い、医療不信、反ワクチン運動、「疾患の治療」と「病いの癒やし」の隔たり、等、いままでなんとなく感じてきたギャップや疑問について理解を深めるきっかけになるかもしれません。
<テキスト>
  1. なし
<参考書>
  1. アーサー・クラインマン, 「病いの語り 慢性の病いをめぐる臨床人類学」, 誠信書房 1996
  2. アーサー・クラインマン, 「他者の苦しみへの責任 ソーシャル・サファリングを知る」, みすず書房 2011
  3. 野口裕二, 「ナラティヴ・アプローチ」, 勁草書房 2009
  4. シーラ・マクナミー, 「ナラティヴ・セラピー 社会構成主義の実践」, 遠見書房 2014
  5. 森岡正芳, 「臨床ナラティヴアプローチ」, ミネルヴァ書房 2015
  6. 斎藤清二, 「医療におけるナラティブとエビデンス 対立から調和へ」, 遠見書房 2016
<授業計画の概要>
1タイトル(5/25土) オリエンテーション / 病い illness と疾患 disease(1)理論・観察
事前学習
事後学習
本科目の目的、全体の構成、教育方法についての概観。本科目で取り扱う病い illness および疾患 diseaseの定義について論じ、観察実習(ドラマなどの映像を使用)を通じてその理解を深める。
授業内容簡単な振り返り課題
2タイトル(5/25土) 病い illness と疾患 disease(2)演習 / 「西洋医学という文化」と代替医療
事前学習
事後学習
病いの語りと聞き取りの演習(ロールプレイ)。
医療(西洋医学)の場面でしばしば見受けられる疾患、診断、治療などにまつわる医療従事者と患者の間のすれ違いについて、「病いと疾患」の観点から考察する。
授業内容演習準備(簡単なシナリオの準備)
簡単な振り返り課題
3タイトル(6/8土) スティグマ病―社会が増幅する病いの苦しみ / ナラティブ聴取の技術
事前学習
事後学習
社会によって増幅される病いの苦しみについての発表と討論。
ナラティブ聴取の具体的技術について説明し、実践演習を行う。
授業内容社会によって増幅される病いの苦しみについて簡単な情報収集(情報ソースの例は授業で紹介する)
評価課題(疾患と病いについての考察)
4タイトル(6/8土) ナラティブ・アプローチ(1)エスノグラフィー / ナラティブ聴取の技術
事前学習
事後学習
他者の文化を理解する際に用いられるエスノグラフィーという方法論、基本的考え方について講義。
ナラティブ聴取の具体的技術について説明し、実践演習を行う。
授業内容ナラティブ聴取の課題に取り組む
簡単な振り返り課題
5タイトル(6/15土) ナラティブ・アプローチ(2)意味生成と治療的会話、ストーリー・テリング
事前学習
事後学習
医療介護福祉場面におけるストーリー・テリングの重要性、意味生成、治療的会話について講義。
関連する事例やナラティブについて共有しあい、議論、理解を深める。
授業内容短い課題資料を事前読了する
簡単な振り返り課題
6タイトル(6/15土) 慢性疾患と高齢者のナラティブ / 介護をする人々のナラティブ
事前学習
事後学習
慢性疾患を抱える人々、高齢者、介護に関わる人々のナラティブついて共有、議論、理解を深める。
授業内容ナラティブ聴取の課題に取り組む
簡単な振り返り課題
7タイトル(6/22土) 文化によって規定される病い / 外国で医療を受ける人々のナラティブ
事前学習
事後学習
文化によって規定される病いについて講義。事例を共有。
外国で医療を受ける人々のナラティブについて事例を共有、議論、理解を深める。
授業内容ナラティブ聴取の課題に取り組む
簡単な振り返り課題
8タイトル(6/22土) 最終討論 多文化共生社会における保健医療福祉の現場でナラティブをどう活かせるのか?
事前学習
事後学習
多文化共生社会における保健医療福祉の現場でナラティブをどう活かせるのか?というテーマに沿って、複数の段階的質問を設定し、それぞれについて学習者全体で総合討論を行う。
授業内容課題レポートに取り組む
<実務経験のある教員による授業科目の概要>
医師:内科医・家庭医として日本の地域医療に従事したのち、国境なき医師団、国連児童基金(UNICEF)、世界保健機関(WHO)等を通じて、グローバルヘルスの分野でアジア・アフリカ諸国で活動。
具体的な教育方法
・日本において地域医療に従事し、医師教育に携わった経験から、患者の病いの経験を聴取・理解することの重要性を臨床実例にもとづいて指導できる
・海外における人道援助活動や疾病対策の政策策定に携わった経験から、保健医療福祉における文化理解の重要性を豊富な事例にもとづいて指導できる
<前年度授業に対する改善要望等への対応>
授業評価アンケート対象外
<備考>
・本科目は、5/25、6/8、6/15、6/22、いずれも土曜日9:00~12:10の時間帯に山梨県立大学飯田キャンパスで実施します。
・本科目は医療福祉に関わるものだけではなく、広く本トピックに興味をもつ人が、だれでも学べるように配慮してデザインされています。事前の専門的な知識や技術は必須ではありません。
・他大学の学生や社会人等とともに学ぶ「PENTAS YAMANASHI」の科目です。