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授業科目名 公共性の哲学
時間割番号 180351
担当教員名 本間 信長
開講学期・曜日・時限 後期・金・III 単位数 2
<対象学生>
(指定なし)
<授業の目的および概要>
 「公共性」というのはある意味で魔法の言葉のようでもあります.まず,これには「公共性」があるといわれると,それは「みんな」のものだから尊重しなければならないと思いやすいですね.
 仮にあなたがそう思わなくても,「公共性」に備わっている威力は人を従わせることが出来ます.
 例えば,あなたの住んでいる家が新しく計画された道路の予定地になったとしましょう.あなたの住む土地は先祖代々暮らしてきた土地で,深い愛着があります.家も,思い出が詰まったかけがえのないものです.それらはお金には替えられないと思えば,あなたは何としてもその土地と家を守りたいと思うでしょう.しかし,あなたの思いは,強制執行しようとする国や地方公共団体が持ち出す「公共の福祉」の名の前には撤退せざるを得ないでしょう.「公共の福祉」は「公共性」のバリエーションです.「公共性」は,権力行使のよりどころなのです.
 この場合,少なくともあなたの利益は損なわれるわけですが,それでも「みんな」の利益は守られるから,あなたの家を潰して道路にすることには「公共性」があるといわれるでしょう.そうしてみると,「みんな」とは必ずしも「全員」であるわけではないですね.
 道路ではなくて飛行場を建設しようなどという話になると,立ち退きを求められる人々の数はもっと増え,はげしい対立が生じることもあります.
 以前は,国家などの制度化された政治的権威こそが「公共性」を持っていると考えられがちでしたから,建設反対の住民が涙をのむことばかりでした.
 しかし,状況には変化が見られ,原発建設で住民投票がおこなわれ,その結果建設が撤回されることもありました.ダム建設に反対する住民運動が裁判で勝訴するということも起こるようになってきましたし,ダム建設への反対を訴えた候補者が知事に選ばれるということもありました.
 つまり,「公共性」は今まさに問い直されているところなのです.
 そこで,この講義では,「公共性」をめぐる現在の状況を把握することを目指します.
 「公共性の哲学」という講義科目名に,皆さんは近づきにくい印象を持つかもしれません.確かに,「哲学」というと,それだけで何か難しそうな気がしてくるものです.しかし,哲学というのは,現実の世界からある事柄を受け取って,それについて考えてみるということを出発点にするものです.哲学は決して現実から遊離したものではありません.また,自分で考えようとしさえすれば,いつでも,誰でもその出発点に立つことができます.現実の世界のある事柄を受け取って「公共性ということについて考えてみる」のが「公共性の哲学」です.
 考えるためには材料が必要ですが,それを主に提供するのが補助者である担当者の役割となります.できるだけ身近な話題から入っていきます.クラスでは,私の話だけでなく,ビデオなども使いながら,それぞれの人が考えるための材料を提供していきます.なお,昨年度は具体的に考える材料として義務教育のあり方をめぐる議論を取り上げました.義務教育は身近な問題であり,取り組みやすいようでしたので,他により興味を引きそうなテーマがなければ本年度も最後に義務教育問題を取り上げようと思います.
 「公共性」とは何か,どのようにしたら「公共性」を高めていくことができるか,このようなことについて共に考えるクラスにしていきたいと思います.
<授業の方法>
 基本的に講義形式をとりますが,ビデオ等もできるだけ多く用いる予定です.
 同じ授業に出ている人同士が意見を共有して共に考える機会も重要で,その様な試みは「公共性の哲学」にふさわしいと思いますので,13回目あたりにクラスでディスカッションの時間を設けたいと思っています。
 また,毎回授業の終わりに,皆さんの意見や感想を書いてもらう時間をできるだけ設けたいと考えています.共有すべき意見や感想は後で紹介するなどして,皆さんが積極的に授業に参加する機会も広げていきたいと思います.
<成績評価の方法>
 レポートに出席等を加味して総合的に評価します.
 出席は機械で取りますので,カードを忘れないでください.
 
<受講に際して・学生へのメッセージ>
 「公共性」について共に考えることを通して,現在私たちが生きている社会にはどのような特徴があり,今どのようなことが問題とされているのかを学ぶ機会としてもらえばと考えています.
 講義は,新聞やテレビの報道を糸口にしながら,既存の知識を前提としないで進めていきたいと思います.
<テキスト>
  1. 公共性の哲学を学ぶ人のために, 世界思想社, ISBN:4790710718,
    (受講者は購入してください)

  2. 市民権とは何か, 岩波書店, ISBN:4000233734
  3. 人権の彼方に:政治哲学ノート, 以文社, ISBN:4753102122
  4. アイデンティティと共生の哲学, 筑摩書房, ISBN:4480842241
  5. リスク社会を生きる, 岩波書店, ISBN:4000255614
<参考書>
  1. 市民がつくる公共事業, 岩波書店, ISBN:4000092898,
    (岩波ブックレット No.589)

  2. 公共事業は止まるか, 岩波書店, ISBN:4004307171,
    (岩波新書(新赤版)717)

  3. 公共事業をどうするか, 岩波書店, ISBN:400430492X,
    (岩波新書(新赤版)492)

  4. 転型期日本の政治と文化, 岩波書店, ISBN:400024017X
  5. ドイツの政治教育:成熟した民主社会への課題, 岩波書店, ISBN:4000241354
<授業計画の概要>
(以下の授業計画は予定です.変更の可能性があります)

第1回    「公共性の哲学」という科目とテキストについて
第2~3回   現代日本の「公共事業」:「公共性」という問題への入り口として
第4~6回   公共性をめぐる歴史(西欧):近代から福祉国家へ
第7~8回   日本における近代化と「公共性」
第9回    「第二の近代」の諸特徴
第10~13回  現代世界と「公共性」
第14~15回  現代日本と「公共性」:義務教育のあり方をめぐって